第29号 2005年 春


表紙の言葉

お母さんの手
おばあちゃんの手
ひいおばあちゃんの手
その前のおばあちゃんの手
昔のまんま  お手玉はずむ
こんどは私
届け 届け
ず〜っと未来のこどもたちまで

表紙の写真
  奥会津つれづれ  

 「君に逢う以前の 僕に逢いたくて 海へのバスに揺られていたり」歌人永田和宏さんの作品でこんな歌がある。
 今の自分もたしかに自分だけど、以前の自分とはどこか違う。どこかは分からないけれど、何か違う気がする。もしかしたら以前の自分に出逢えるような気がして、海行きのバスに乗り込んでみるというちょっとした自分探しの歌だ。
 私にとっての海行きのバスは、奥会津を走る只見線だ。真っ暗なトンネルをいくつもくぐりながら、力強く走る列車にひとたび乗り込めば、幼い頃に母と毎週のように乗ったこと、高校時代には友人と話をして過ごした自分が隣に座っているようなそんな錯覚を覚えるほど、昔と変わらない空気がそこにある。
 毎日机に向かって仕事をしていると、目の前のことばかり考えて本当に大切なものが何なのか分からなくなる。大切なものが見えなくなってしまう。そんな時は、日常から少しだけ離れてみるのもいいかもしれない。
 学生時代、いつもホームで見送ってくれた父のことを思い出した。学校が休みになればまた会えるというのに、寂しそうな顔で私を見送ってくれた。
 「いつも心配かけてばかりでごめん。頑張るから。」
 やっと言葉になったその気持ちを、今さらだけど伝えたいと思う。(治)

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道・探訪
 

柳津町〜やないづまち〜三島町〜みしままち〜 

 
 柳津町から三島町にかけて、豊かな水をたたえた只見川の渓谷が貫いている。雪が降り積った山々が深青色の只見川に落ち込む様は、巨大な水墨画のような情趣が漂う。時折、雪が舞い降り、川面には煙が立つように霧がかかる様子は今なお冬だが、渓谷を吹く風はかすかに温もりを帯び、雪解けが静かに近づいている。
 

福満虚空尊圓蔵寺(柳津町)

鉄橋を渡る汽車(三島町)

 
 一見すると今だ冬ごもりが続いているようだが、渓谷の村々では信仰の営みは絶えることなく、家々の中では冬の手仕事が仕上げの時期を迎えている。
 渓谷沿いには多数の寺社仏閣・野仏が点々と連なり、地域の人々の厚い信仰が伺われる。とりわけ柳津町の圓蔵寺は、只見川に大伽藍を映す渓谷随一の霊場だ。
神々の道
神々の道 また、三島町早戸地区の山道「神々の道」には、すっぽりと雪をかぶった多数の石祠が、春の訪れをじっと待つかのようにたたずんでいる。「金毘羅」「稲荷」「山ノ神」「風ノ神」「雷神」など、長い歴史の中で積み重ねられた信仰が今なお続いている。
 只見川の上流から木材を組んだイカダを流していた往時、早戸集落の下を流れる只見川には難所・通称「大根おろし」と呼ばれる浅瀬の岩場があった。水運の無事を祈ったのか、「神々の道」には奥会津地域では珍しい「水神」も祭られている。
冬の手仕事
微細彫刻 冬期の手仕事としては柳津町の「微細彫刻」、三島町の「マタタビ細工」などが良く知られている。
 「微細彫刻」はクルミ、ギンナン、モミガラなどを厨子に、その中にわずか数ミリの菩薩像、七福神などが安置されている。彫りはルーペを使わなければはっきり分からないほど細かく、顔の穏やかな表情までが丁寧に刻み込まれる。
 また、三島町ではマタタビのほか、ヒロロ、モワダ、アケビヅル、ヤマブドウヅルなど多彩な自然素材を使った細工物の仕上げに余念がない。「マタタビ細工」の作業場では細く裂かれたマタタビから独特の香気が漂い、手の動きに応じて美しい幾何学模様が現れる。マタタビで編まれたザルや菓子皿は、年月を経るほどに柔らかなアメ色を帯び、他の製品にはない独特の味わいが出てくる。
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奥会津の歳時記 12
 
うさぎの足跡  
 3月。暮らしを威圧し続けた雪の表情が日毎に変わって行く。
 名残りの雪は重く湿り、黄砂を含んだ褐色の雪が季節の断層を見せている。
 雪解けがはじまる寒暖の差の激しいこの時期には、日中の暖かさに解けた雪の表面が朝方の冷え込みで凍結し、雪の上を固い地面のように自由自在に歩きまわることが出来る。   
 朝日を受けてダイヤを撒き散らしたようにきらめく雪原はどこまでも広がり、動物たちの足跡が無数に残されているのを見ることが出来る。これはウサギの足跡だ。
 ウサギは外敵を警戒して何度か同じところを走り回ってエサを食べるという。様々な方向に交差しているが、これも恐らく一匹のウサギの足跡だろう。
 テンやキツネも特徴的な足跡を残して行く。春の兆しの中で動物たちの動きも喜色に溢れているようだ。


■ 写真・文:竹島 善一 ■
 
 
     
▲春の彼岸に合わせて寺で「だんごまき」の行事がある。これに先立ってのだんご丸めは女人衆の作業であり団欒の時でもある。一緒である喜び、奉仕の思いが女をなごませる。
(三島町西方・昭和52年3月)
 

▲寺の涅槃会行事では、心身共に満たされた。人々は拾っただんごを手に家路を戻る。これを食べればこの一年も無病息災だ。奥会津の山寺に行列ができる日。
(三島町西方・昭和52年3月)

 
 
雪食地形(せっしょくちけい)
    只見川に沿う国道252号線を走ってみると、山がみんな尖っているのが目に付く。それは、雪が山肌を浸食してできたもので、「雪食地形」と呼ばれている。降り積もっ
た雪が雪崩となって山の斜面を削り取るためにできたもので、このような山は全国
でも奥会津にもっとも集中している。これは、世界でも珍しい山として注目されはじめた。この春、雪食地形の山を探してみてはいかがだろうか。

 ※ご注意 
アバランチ・シュートは「雪の通路」という意味で、雪食地形の一種です。雪食地形
とは、多雪が山地に作用してつくられた地形をさす総称です。その種類には、アバラ
ンチ・シュート、筋状地形、グライド地形、雪田などがあります。

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 とある山あいの小さな村。毎年冬になると不思議な言葉を聞く。
  「アリノタマゴ」「シロイウマ」。
 人々は声をひそめてささやきあい、そっと顔を見合わせて口元をほころばせる。
「今年はすっかく(酸っぱく)なっちゃったぁ」
「オレんとこはうまくできた、あとで来う」
 聞いてみれば、それはどぶろくのことだった。昔は密造酒の取り締まりが厳しく、役人に見つかれば捕まってしまった。そこで隠語を使っていたのである。
 よほど親しくならないと、よそのものには供されない。その味は秘密に造られるゆえに、腹に染みわたる旨さなのだ。
6・どぶろく

 昔は見つからないように山ン中で造ったんだよ。家ン中だと匂いで分かっちまうから。寒の水で仕込んでおけば夏まで持つっていうけど、持たないよなぁ。旨くてすぐ飲んじまうもの。
 あんまり急に沸かしすぎっと酸っぱくなる。自然に発酵するのを待つと、おいしいどぶろくができんだよ。
 節分の時なんか子供たちが豆拾いに来っけど、子めらが帰ったら今度は大人の節分だ。どぶろく飲むのが楽しみだったよ。

またたびのスイノウと土間箒
(南郷村)
   
 

 蕎麦やうどんなどの麺類を茹で、掬い上げるときに使われるのがスイノウ。麺を掬うに実に適した形で、鍋の大きさや麺の量に合わせて大きさも様々だ。
 奥会津では竹が少ないので、素材には山野に自生するまたたびが用いられることが多い。
 またたびを採取するのは11月の初め。生木のうちに表皮を剥いで、太さによって四つか五つに裂いて幅寄せをして揃えておく。またたび細工は採取から幅寄せまでの下準備が最も手間がかかるのだ。
スイノウの柔らかな曲線が好まれるのか、花活けなど新しい使い方で楽しむという人も増えた。

◆ 1本:1,500円

土間箒
 最近は土間も少なくなったが、座敷や板の間を掃くにも機能的な材質と軽さである。なにより形が美しい。編み上げられた束の根元からゆったり広がる箒木のデザインは、気持ちの整理も促すような伝統的な姿である。


◆ 1本:2,100円
◆お問合せ:きらら289 пF0241-71-1289